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Mon.12.03.2012 Posted in @Theater

ここ数日、数年前のことを、何かにつけて。


頻繁に思い出す。








2009年7月25日。
彼が、長年主役を務めた舞台を降板した夜。




もう、2年以上も前のことになる。








あの日、舞台がはねて。

わたしは、いつものように、一人。



彼の部屋に向かった。




その夜の楽屋の扉は。


彼の、最後のステージを称えるために訪れたゲストを迎え入れるために。

大きく、開け放ってあった。



そんな何気ないところが、やはり、常とは違っていて。
わたしは、胸を衝かれた。


ああ、ほんとうに、今日が最後なんだ。
ここでこの人と会うことは、この先はもうないんだ。






楽屋には、先客があった。

彼らが、話している間。


わたしは、戸口のところで待った。




続き部屋になっている居室には、彼の次男が来ていて。

10年間のロングランを走り終えた父親の姿を、ドレッサーのアンドリューと一緒に。


静かに、見守っていた。




素敵な光景だった。





彼は、メイクアップ・チェアに腰掛けて。
セルマに手伝ってもらいながら、いつものように。



分厚い特殊メイクを落として、素顔に戻っているところだった。





やがてゲストを送り出した彼は、わたしの姿を見ると、笑顔になって。
Mariko, Come in!と、呼んだ。


屈託のない、明るい、大きな声だった。






わたしは、一輪の薔薇を手に、彼の元へ行った。

そして。


素晴らしいパフォーマンスをありがとう、と。



ようやく、それだけ、口にした。




その後はもう、言葉が出てこなかったのだ。



胸が一杯で。






彼は、微笑んで。


薔薇をわたしの手から受け取って、傍らに置くと、そのまま。
両手を、こちらに、差し伸べて。



わたしの両手をとると、その大きな手で、下から包み込んだ。






そのとき、わたしは、泣いてはいなかったけど。

もしかしたら。

泣きそうな顔をしていたのかもしれない。




そんなわたしを、彼は、笑顔を湛えた目で見つめた。





大好きな彼の、見慣れた、柔らかな色の瞳を見て、わたしは。

やっぱり、何も言えず。



言いたいことは、たくさんあるような気がしたけど。

どうしても、言葉にならなかった。




自分の両手を包み込んでいる、彼の。



温かな、大きな両手を、そのまま。

黙って、握っていた。





倒れてしまいそうな気がして。

その拍子に、少しだけ。


彼に預けた手に、力が入った。





彼は、微笑んで。

わたしの体を支えるように、握り返してくれた。





彼の強いエネルギーが、握り合った手を通して。



体の中に、流れ込んでくるような気がした。





彼は、いいんだよ。
何も言わなくて良いよ。

わかっているよ、と。



微笑みながら、頷いていた。







あの瞬間。





わたしたちは、確かに。

この世界に、たった二人きりだった。







わたしは、いつだって。


彼とわたしの関係は。

人には、到底、理解してもらえないだろうと思っていた。




自分の気持ちが、怖くもあった。


自分の本当に気持ちは、口に出してはいけないと思っていた。



彼にも、自分自身に対しても。
わたしと、彼の周りの人々に対しても。




傷つくのが怖かったし。

傷つけるのも、怖かった。




今でも怖い。





けれど、あの人は。



わたしが、自分自身からすら隠そうとしていた、本当の気持ちも。


心の奥底ではわかっていながら、向き合うまいと逃げていた。

気づかないふりをしようと、懸命に足掻いていた。


わたしの愛も、怖れも、迷いも、何もかも。



とっくにわかっていたんだろうな、と。



今は思う。






わかっていて、それでも。


わたしの心を、受け入れてくれていたのだ。




あのときから、ずっと。


今、この瞬間も、きっと。



もしかしたら、6年前。

初めて会ったときから。











あの夜。



彼は、わたしの手を。
長いこと、放そうとしなかった。



わたしも、そのまま、彼に。


自分の両手を、委ねていた。







これから先、あなたと連絡を取りたいときに、わたしはどうすれば良いの?

やっとそれだけ言ったわたしに、彼は答えた。





次の手紙に、君のメールアドレスを書いて。




メールしてくれるの?




もちろん。








そして。



彼は、わたしの手を握る両手に力を籠めると、やさしく。


でも。

わたしに抵抗する間を与えずに、自分の体に、引き寄せた。




椅子に座った彼の、やさしく微笑む顔が。

わたしの、すぐ目の前にあった。



わたしは、自分の頬を、彼の頬に寄せた。



彼は、そのまま素早く、わたしの頬に唇をつけると。


体を離す直前に。





わたしの耳元で、一言。


囁いた。





一瞬だったし。


低い、囁き声だったから。





わたし以外の誰にも、彼のその言葉は、まったく。

聞こえなかっただろうと思う。












最後の最後に、甘美な罪を共有したような。





そんな気分だった。







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