スポンサーサイト
--.--.--.-- Posted in スポンサー広告
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
『Exit the King』
Sat.30.05.2009 Posted in @Theater


「きみたち、無数の、俺の前に死んでいった人たち。
皆、俺を助けてくれ。

死ぬために、死を受け入れるために、きみたちはどんなことをしてみたのか。
それを話してくれ。
教えてくれ」

「きみたちの模範が俺の慰めになってくれ。
松葉杖や友人の腕にすがるように、俺はきみたちにすがりたい。
きみたちが乗り越えた扉を、俺も乗り越えられるように手伝ってくれ。

ほんのしばらくでいい、あの世から戻ってきて、俺を助けてくれ」


「きみたちだって怖がりもしなかった、死にたくもなかった、助けてくれ、どうしてそうなった?

誰がきみたちを助け、誰がきみたちを引きずり込み、だれがきみたちの背を押した?


きみたちも最後まで怖がったのか?



強くて勇敢だったきみたち、無関心に、落ち着き払って死を受け入れたのはだれだ?
教えてくれ、無関心を、教えてくれ、落ち着きを。

教えてくれ、あきらめを」





上記に引用したのは、一幕の終盤間際。


それまでの、間抜けで、狂騒的で。
小屋全体が爆笑で揺れるほどに、客席を沸かせた徹底的なコメディ芝居から一転。


ただただ、静寂の支配する中で。


舞台から一人、静かに客席に降り立った”瀕死の王”が、通路をまろび、さまよい歩きながら。

呆然とした口調で独白する長台詞です。


青白いスポットライトに照らされる中、どこを見るでもない虚ろな眼差しで。
長い指を宙に踊らせ、覚束ない足取りで、背中を丸め。

前屈みで。

乱れた白髪、目の下の緑の隈、黄色く乾いた爪先。
深夜の、仕事帰りの疲れたピエロのような、滑稽で悲しい。


その姿で、まるで深海の底を彷徨うかのような足運びで。

客席間を、ゆっくりと徘徊するジェフリー・ラッシュに。


それは、劇場全体が掌握された瞬間だったと思います。


ものすごかった。


kingtop.jpg



確かにあのとき、空気ががらりと変わった。

まるでそれまでカラーだったのが、いきなりモノクロームの画面に切り替わるように。
はっきりと、色が変わったのだ。


それまで舞台上で繰り広げられていた、王様とその取り巻きの喜劇。
観客として、傍観者として楽しんでいた舞台。


ジェフリーが客席に降りたその時に、わたしを含めて皆、愕然と悟らされたのだ。


「これはわたしたちの人生の話だ」
「これはわたしたちの物語なんだ」


わたしたちは今、生きているのかそれとも死んでいるのか?
この死にかけた王様に、死者扱いされているわたしたちは一体何なのか?



ああ。


この人は天才だ。

紛れもない、芝居の神の申し子だ。


こんなにも凄い人が、この世の中にはいるんだ。

わたしは「見て」しまったんだ、と。



はっきりと、わかった瞬間だった。


king7.jpg


こんなにシンプルな脚本で。

セットだって、最小限の、ごく簡素なもので。

とりたててドラマティックな出来事が起こるわけでもない。


舞台の上には王様が一人。

ただただ、生に執着し、諦めきれず、もがき、もだえ、みっともなくあがき続ける、年老いた哀れな男。

そして、そんな彼の姿を、それぞれの立場から見守る5人がいるだけだ。


king6.jpg


かつて俺は王国を手中にしていた。
人心も、雲も風も、太陽さえも俺の言うがままだった。

死にかけている俺、今、自分の体さえも思い通りに動かない。

城は倒壊寸前、心臓は気ままに不規則に鼓動を打って俺を翻弄する。
壁には亀裂が走り、空気は冷えていく。



死にたくない、助けてくれ、もう一度やり直したい。
ここにいたい、感じたい、愛したい、触れていたい、食べたい、思い出したい、匂いを嗅がせてくれ。



ありとあらゆる懇願をし、じたばたと、全身であらん限りの抵抗を試みていた王様が。


一枚一枚、それこそ、まるで薄皮を剥ぐように。
肉体の崩壊を受け入れ、生への執着を捨て、やがて現世を忘れていく。

諦めを、死を、受け容れていく。


最期は、顔を見るのも嫌がっていた王妃に導かれて、静かに旅立つのだ。


執着や煩悩や、彼をこの世に縛りつけていたありとあらゆる重荷と枷から、自由に解き放たれて。



ラスト・シーンは、王妃もその声だけを残して舞台袖に退いて。

玉座に一人、王が残されます。


徐々に照明が落ちて行って、ドア、窓、壁が視界から消えて行く。


灰色の光に照らされて、呆然と玉座に座っている王様だけが残る。


そして、彼の首がゆっくりと背中に倒れ、一息。

末期の息。


そして暗転、幕。





美しいというには、あまりにも残酷で。

安らかで。


凄まじく、恐ろしく、滑稽で、悲しい。


観客席は総立ちでした。




わたしは打ちのめされて、しばらく立ち上がれない気分だった。
けど、椅子からよろめくように立って、あらん限りの力で拍手をした。

そうせずにはいられなかったから。



こんな凄いもの見た事がない。

神様、ありがとう、と思った。


king5.jpg




とにもかくにも、ジェフリー・ラッシュ。

この人の、凄まじいまでの演技力を堪能するための芝居です。


しなやかな体の動き、声のトーン、表情、絶妙な間合い。
全身から立ち上るオーラ。

この人のすごさは、とてもじゃないですが、映画のスクリーンではわからない。
というか、多分、カメラなんかには収まりきらないんだろうと思います。

パントマイムの巧さも特筆もの。
よくもあんなに、自在に体が動くものだと思う。


アンドレア・マーティンもスーザン・サランドンも巧いし、皆素晴らしいんですけどね。

ジェフリーが出ている間は、彼から一瞬も目が離せませんでした。

呼吸も忘れるほどに、彼の一挙手一投足に見入っていた。


これだけの演技力があって、これだけのオーラと吸引力があって、なおかつ、演技派と呼ばれるような俳優にともすればありがちな押し付けがましさなんて、一切ないのだ。

観客を疲れさすようなことは微塵もない。


これぞ役者だ。



king3.jpg




まず間違いなくトニー賞は受賞することでしょうが、とにかく、一人でも多くの方に見ていただきたい。
心からそう思う。


これだけを観にNYに飛んでも、決して損はしないと思います。


とにかく、必見中の必見。



演劇を愛するすべての方に。

いや、それより何より。


やがて死に赴く、すべての人々に。



全身全霊をもって、お勧めします。




6月14日までの限定公演。


BWW.com:Show previewはこちら。



king2.jpg


(May, 2009 @Ethel Barrymore Theatre )


« Wreath of hydrangea | Home | 芍薬五種 »

comments

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

trackback


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。